都市の憩いの空間、木陰のある風景。木漏れ日のあるお庭。紅葉とイルミネーションに色づく街路樹。いずれも人と樹木が同じ空間で共存することの大切さを教えてくれます。
 さてさて、“共存”なんて言うからには、お互いに譲り合いが大切だと思うのですが、こと緑に対しましては、概ね人の都合を樹木に押し付けてしまって、樹木は黙って耐えてもらうという状況がそこかしこに溢れています。
 例えば剪定作業。専門家の目からはぎょっとするような道具でエイヤッ!エイヤッ!と木と格闘されている風景などをよく目にしますし、木の生命力にカツカツのところまで切り込む姿も目に付きます。都市環境にある樹木につきものの剪定作業なのですが、木に与える影響の如何についていつも気になります。
 そこで、剪定ばさみを3種用意しまして、柿の小枝を切断し、その断面を観察してみました。

 

それぞれの剪定ばさみでの切断状況

それぞれの剪定ばさみでの切断状況

 

 

 

 

(左)手入れがされていない非常に廉価で刃がもろい剪定ばさみ

 

(中)研いでから数日使用した刃が柔らかい剪定ばさみ

 

(右)研ぎたての鋼の硬い剪定ばさみ

 

の3種の剪定ばさみで写真のように柿の小枝の上部をナナメに剪定し、下部は枝に垂直に剪定します。

 

 

 

手入れがされていない非常に廉価で刃がもろい剪定ばさみ

手入れがされていない非常に廉価で刃がもろい剪定ばさみ

 

 

 

 

 

 

 

この切り口を約220倍に拡大して見てみると手入れがされていない非常に廉価で刃がもろい剪定ばさみではナナメに切った断面には大きなケバ立ちが見られます。また水平に切断した断面は、なんとなくモヤモヤしています。

研いでから数日使用した刃が柔らかい剪定ばさみ

研いでから数日使用した刃が柔らかい剪定ばさみ

 

 

 

 

 

 

 

次に研いでから数日使用した刃が柔らかい剪定ばさみでは、ナナメに切った部分はそれなりにケバ立っています。垂直に切った断面は先ほどの手入れがなされていないハサミに比べ非常にスッキリとした断面で比較的にみずみずしく切れていることがわかります。

研ぎたての鋼の硬い剪定ばさみ

研ぎたての鋼の硬い剪定ばさみ

 

 

 

 

 

 

 

研ぎたての鋼の硬い剪定ばさみでは、ナナメに切った部分では3種の中で最も綺麗に切れており、何より垂直に切った断面では、上記の2種には無いツルツルした断面の組織が見られます。
 剪定ばさみの性質上、片面の刃で枝を押し切る動作になるので、切断の最終部分にはケバ立ちが出やすく、断面は刃が鈍いほど切断面の組織が押し潰されてしまいます。肉眼で見た場合の断面は3種とも大して変わらないのですが、実際の切断面の表面積には大きな違いが出ます。

 

 

 

 

 

 

 晴天に響くチョキンチョキンと澄んだ響きは、剪定した断面の面積が非常に小さい証。

断面積が大きくなればなるほど、木に与える障害が大きくなることになりますのでボリボリ、バキバキッという音

は、木の悲鳴に他なりません。

                                               笹部雄作