私はN造園で働いている。
 他の業種もそうかもしれないが、造園業というのは、ある期間に仕事が集中してしまう傾向にある。忙しい時期は、休み無しで働いても全てこなせない場合がある。そんな時、私はS氏に助けを求める・・・。
 S氏は、若くて抜群の機動力を持っている。非常に勉強熱心で、我が会の「若手のホープ」である。少しマニアックな性格で、ハサミや包丁など「刃物」が大好きだそうだ。彼が刃物を手にしているときは、目に異様な光が宿っている。そんな極めて危ない面も持っているが、いつも非常に丁寧な口調で語り、穏やかな雰囲気をかもし出している、とても優しい人だ。
 夏の暑さが少し和らいだある日、S氏に助っ人に来てもらうよう依頼した。
「ありがとうございますぅ~。」
 非常に丁寧な口調で、S氏は快く引き受けてくれた。
 その日の仕事は剪定作業なのだが、脚立でも届かないような高木ばかりだった。

 

フル装備のS氏

フル装備のS氏

 

「これは、登らなしゃあないですねぇ。」
 私が思案していると、
「私が登りますぅ~。」
 非常に丁寧な口調でつぶやき、S氏はあっという間に木に登っていった。その顔は、とてもいきいきしていた。普段の会議などで見る顔と同一人物とは思えないほどである。ものすごい速さで高木を渡り歩いているS氏を見ていると、私はふと、以前訪れた屋久島の「屋久ザル」を思い出した。

 

樹上で作業をするS氏

樹上で作業をするS氏

 

 お昼になって、皆で木陰に座り弁当を広げた。S氏は、この上ない「愛妻家」だということでも有名であり、弁当ももちろん「愛妻弁当」だ。
「とてもおいしいですぅ~。たいへん助かりますぅ~。」

 

S氏の愛妻弁当

S氏の愛妻弁当

 

非常に丁寧な口調でつぶやき、S氏は喜んで弁当をたいらげていた。ちなみに私は、コンビニのおにぎりだ。
 その日は、ちょっとしたトラブルがあり、仕事が終わるのがかなり遅くなってしまった。そんなときでも、S氏はいやな顔ひとつせず手伝ってくれる。自分のことが多少犠牲になっても、優先的に助けてくれるのだ。
「本当に、申し訳ないです・・・。」
 私が恐縮していると、
「とんでもないですぅ~。私のことは、お気になさらないで下さいぃ~。」
 非常に丁寧な口調でS氏は答えてくれた。
「本当にいい人やなぁ。」と思いながら、感謝のまなざしを向けていたとき、ハサミを片付けているS氏の目に異様な光が宿っているのを、私は見逃さなかった・・・。
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