「あつっ!」
それは、一瞬の出来事だった。奴は私のわずかな油断を見逃さずに、やいばを突き立ててきた。
「くそっ!やりやがった・・・。」
親指の付け根に炎を押し付けられたような痛みを感じながら、私は後悔の念に襲われていた・・・。
我々造園屋の仕事は、危険を伴うことが度々ある。高所の作業や猛暑における熱中症など様々だが、特に害虫による被害にはしょっちゅう遭う。皆さんおなじみのチャドクガ、イラガや蜂などである。中でも、スズメバチは非常に怖い。攻撃性、毒性が強く、刺されると死に至る可能性があり、危険極まりない。スズメバチほどではないが、アシナガバチも要注意だ。こいつは、庭木に営巣することが非常に多く、昔から我々の悩みの種である。
しかし、近年力強い味方が登場している。蜂専用殺虫スプレー“ハチジェット”である。これは非常にすぐれもので、強力ジェット噴射は10mにも達し、強烈な殺傷能力により薬剤がかかった蜂は身体を捻じ曲げながら即刻死に至る。したがって、アシナガバチなら、事前に巣を見つけさえすれば、比較的安全に駆除することができる。おかげで、私の中ではアシナガバチは怖い存在ではなくなりつつあった・・・。
その日、台風一過の青空のもと、快適な気分で剪定作業を行っていたところ、目の前に一匹のアシナガバチがふわっと浮かび上がった。
私は、「なんや。アシナガバチかいな。怖ないわ!」と余裕をかましていたら、刺されてしまった。右手親指の付け根に一撃。
腹が立ったので、むきになってハチジェットを10秒くらい吹き付けてやったが、後の祭りだ。案の定、焼き鳥屋でおなじみの手羽先餃子のように腫れ上がってしまった。数日前、左手親指を突き指していたので、両手とも腫れて不便で仕方がない・・・。
やはり、自然界を侮ってはいけない。
「めっちゃ、かゆい・・・。」
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