「ただいま・・・。」
 その日、当時高校3年生の息子は明らかに不穏な空気を漂わせて学校から帰ってきた。
「ケータイ失くした・・・。」
なるほど、それで機嫌が悪いのか・・・。しかし、私はここで頭ごなしに叱るようなことはしない。高校3年生といえばとても多感な年頃である。こういう時はあまり刺激しないよう冷静に話そう・・・と思う間もなく、横から妻の容赦ない攻撃が炸裂していた・・・。
「え~!なにやってんの?!ちゃんと大事にしいひんからそんな事になんねんやんか!」
「大事にしてるよ!してるけど失くなってんから、しゃあ~ないやろ!」
私の妻は、感情のコントロールが全くできない。息子は、自業自得だとわかっていて、やり場の無い怒りを押し殺していたのだが、妻の容赦ない攻撃によって完全に理性を失い、我が家は一瞬にして修羅場と化した。
「ちゃんと探したん?もう1回カバンの中とか探してみいや!」
「何回も探したっちゅうねん!けど、無いもんは無い!」
息子はクラブ活動を終えて着替えているときにケータイが無いことに気づき、さんざん探し回ったが見つからなかったので、誰かが間違えて持ち帰ったと推測しているらしい。
しばらく言い争いをしていたが、結局、NTTのケータイお探しサービスへ電話することになった。これはとても便利なサービスで、ケータイを紛失したときに、NTTの担当者が通話をしながらGPS機能を駆使してケータイの位置を探索してくれるらしい。
早速、息子が電話をして必要事項を伝え、探索が始まった。そしてGPSが示すケータイの位置は、私の自宅に限りなく近い場所だった・・・。
 結局、ケータイは息子のカバンの中から見つかった。本人が何回も探したけど無かったと断言していたにも関わらず・・・。いったいどうやったら、あの大きさのケータイを見落とすというのだ?また、なぜあれだけ自信たっぷりに「無かった」と断言できたのか?理解できない・・・。
 結果的に、息子はNTTに電話をして、GPS機能を駆使して、自分のカバンの中のケータイを探してもらったということになる・・・。はずかしい・・・。
「おまえ、どこに目ぇ付けとんねん・・・。」
「わからん!ひゃっひゃっひゃっひゃっ!」
 息子は、まるで他人事のように、楽しそうに笑っていた。
「電話のときの、あの子の顔見た?ひゃっひゃっひゃっひゃっ!」
こっちでは、さっきまであんなに怒っていた妻が、嘘のように大笑いしていた。息子の性格が自分にそっくりだということに気づいているのだろうか・・・?とにかく、二人とも底なしの能天気だ・・・。
しかし、この底抜けの明るさが、私を癒してくれている。
こういうわけで、我が家はいつも笑いに包まれている・・・。
ちなみに、半年後息子が財布をなくしたと言って、再び大騒ぎになった・・・。
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当時の息子のケータイ

当時の息子のケータイ