私はN造園で働いている。親方は義理の父、すなわち私の嫁の父親で、とてもおおらかな性格の優しい人だ。それに似たのであろう、その娘である私の嫁も、とてもおおらかな性格をしている。
 私の嫁は、現在「アーチェリー」をやっている。嫁の父親が昔からやっていたので、その影響を受けて10年ほど前から始めた。最初は、週1回開催されている近所の市民教室へ通って練習していたのだが、最近はとても熱心で、週2~3回、京都あたりの射場まで通っている。
 その日も、嫁は京都に練習に行っていた。平日なので、もちろん私は仕事に出かけていたのだが、夕方になって嫁から電話がかかってきた。その声の調子は、不安を伝えるものだった・・・。
「今、練習から帰ってきてんけど、家の鍵がないねん。練習場に落としてきたんかなぁ・・・。」
 嫁は、家に入れないで困っているらしい。
「そんなこと言うても、オレはすぐに帰られへんで。京都まで、探しに戻るか?」
「知り合いがまだ残ってるかも知れへんから、電話して聞いてみるわ。」
 なるほど、知り合いが残っていたら、鍵を見つけてくれるかもしれない。しばらくして、また、電話がかかってきた。
「あった!落し物で事務所に届けられてたんやって!」
「良かったやんか!誰かが拾って届けてくれたんやなぁ。」
「届けたんは、アタシやねん!ひゃっひゃっひゃっひゃっ!」
「・・・へっ?!どういう事?」
嫁は、ベンチで休憩しているときに鍵を落としたらしい。それを見つけた嫁は、
「誰か鍵を落としてはるわ・・・。」
と言って、それが自分の鍵かどうか全く疑いもせずに、他人の落し物として事務所に届けたそうだ。自宅前で私に電話してきたときは、その鍵が自分のものだったことにまだ気付いておらず、知り合いから送ってもらった鍵の写メを見て、それが自分のものだったと初めて気付いたらしい。
「そんなことが、有りうるのか・・・?!」
 私は驚愕した。いつも自分が使っている鍵を見て、すぐに気付かないだろうか?あるいは、自分の下に落ちていた鍵を拾って、自分のものではないかという疑惑が少しも沸いてこなかったのだろうか?信じられない・・・。
 帰宅してから、
「いったい、何を考えて生活しとんねん?」
 と嫌味を言うと、
「わからん。ひゃっひゃっひゃっひゃっ!」
 嫁は、まるで他人事のように楽しそうに笑っていた。底なしの能天気だ・・・。
 しかし、これでもアーチェリーの成績はなかなかのものらしく、年中、試合と言っては全国各地を飛び回っている。おかげで、私は働き詰めなのだが・・・。
 こんな嫁だが、この底抜けの明るさが、私を癒してくれている。仕事が大変でも毎日がんばっていけるのは、嫁のおかげである。普段、なかなか口にできないが、とても感謝している。
 こういうわけで、我が家はいつも笑いに包まれている・・・。
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アーチェリーする嫁

アーチェリーする嫁

 

これまでに獲得したトロフィー

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