元親方の靴

元親方の靴

 

 我がN造園では、仕事をするときに地下足袋に履き替える。軽くて動きやすく、特に木に登るときなどはその力を発揮する。靴の中がゴミで汚れないのも長所の1つだ。
 先日、仕事の休憩中に、脱ぎ捨てられた元親方の靴がなにげなく目にとまった。その瞬間、私は何か違和感をおぼえた。よく見てみると、そこには信じられない光景があった.
「左右のサイズがちがうやん・・・!?」
私は驚愕した。その靴は、右が26.5cmで左が27.0cmだったのである。間違えて買ったのだろうか?いや、それは考えにくい。靴は、ふつう左右セットで売っているものである。仮にバラで売っていたとしても、それなら余計にサイズを確認するだろう。私はその理由を聞きたい衝動を抑えることができず、元親方に尋ねた。
「その靴、左右のサイズが違いますよね・・・?」
それはなぜですかと尋ねようとした瞬間、元親方から意外な答えが返ってきた。
「ほんまに?」
私は、再度驚愕した。
「気付いてなかったのか・・・!?」
その靴を購入してから少なくとも半年は経っている。にもかかわらず、元親方は全く気付かずに毎日履き続けていたのである。信じられない・・・。
改めて、こうなるに至った理由を尋ねると、
「いや~わからん!そやけど、なんかおかしいと思っとったんや。ひゃっひゃっひゃっ!」
と、まるで他人事のように、元親方は楽しそうに笑っていた。
「さすがや・・・。」
結局、理由は謎のままだが、小さい事など気にしないというこの性格が、元親方の魅力の1つなのだと再確認したのである。
 こうして、N造園の和やかな日々は続いていく・・・。

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