植栽基盤整備や樹勢回復に土壌改良材は欠かせません。台湾ではどのような土壌改良材が入手可能なのでしょうか。私は台湾に適した土壌改良材を探すのに結構苦労してきました。「ネバネバ・カチカチ台湾土壌」の連載最終回は台湾の土壌改良材の実情について述べます。
■台湾で入手可能な無機質土壌改良材
台湾で入手できる樹木植栽用の土壌改良材は限られています。特に台湾現地で製造されている無機質系土壌改良材は殆どありません。その事は台湾において土壌改良を実施する上で非常に苦労させられる所です。
加湿地でシルト質土壌や粘土質土壌の場合、通気性や排水性を高める必要があります。その改良には無機質系の土壌改良材が必要となります。有機物系土壌改良材を用いると通気性が悪い加湿土壌内では嫌気発酵を起こし、かえって土壌を悪化させてしまう危惧があるからです。
なんとか良い無機質資材が無いかと探し回りましたが、現地産の無機質系資材としては、汚泥を焼成したセラミック状の陶粒(トーリー)と呼ばれる骨材しか見つけられませんでした。陶粒は軽量で硬く扱い易い製品だと思われますが、残念ながら多孔質ではないため、通気透水性改善効果はあまり見込めません。どちらかと言うとセメント混合用軽量骨材として世界各地で使われている材料です。植栽地では地表面を覆うマルチングなどに適した材料となります。
台湾は面積が九州と同じほどですから、採取できる天然鉱物資源が限定的であるため、無機質土壌改良材が製造されないのは仕方ありません。そのような事から、真珠岩パーライト、黒曜石パーライト、バーミュキライトは園芸材料として輸入されています。保水性に優れる真珠岩パーライトやバーミュキライトは加湿地には適しません。また、ベタベタした粘性土に軟らかく崩れやすいバーミュキライトは均一に混合することもできません。
そのため、台湾での排水性・通気性・透水性の改良には、日本から輸入した黒曜石パーライトを用いています。日本から輸入された材料は船運賃や関税で高価なものになってしまいますが、それでも昨今の円安で1年前に比べると20%以上安くなり助かっています。
■台湾で入手可能な有機質土壌改良材
有機質土壌改良材は台湾にも多く存在します。しかし、日本で一般的なバーク堆肥は存在するものの一般的ではありません。台湾で幾つかの有機質土壌改良材を調べましたので、次表に示します。
製造されている製品の大半はサトウキビ粕や木屑に食品残渣を混合して作られています。混合されているものは多岐に渡り、産廃にまわされた残渣を用いていると思われます。
残念ながら台湾各地から取り寄せた堆肥の半分近くは、悪臭がきつくベトつくなど、堆肥として未熟なものでした。品質は安定せず熟度の低い堆肥が結構市場に出回っているようです。上記表の堆肥はそれらの中から比較的良さそうなものを選択し分析値を比較したものです。表に記載したものは概ね乾燥し悪臭はしないものの、堆肥の品質基準で用いられるC/Nは全般的に高い値を示しています。ですから台湾で良質な有機質堆肥を入手するのは結構苦労するかも知れません。まずは堆肥の良し悪しを判別できる目を養う必要がありそうです。
頻繁に耕す畑ならまだしも、加湿地で通気不良の植栽現場に有機質堆肥を用いるには十分な注意が必要です。熟度が低い未熟な堆肥を加湿地に混合すると、少ない土中内酸素を奪い取り、ますます樹木の根が呼吸できなくなり根腐れを起こしてしまいます。また未熟有機物の分解過程で、周辺土壌から樹木の主要分である窒素も奪い取り、窒素飢餓に陥る場合があります。そのような事から有機物堆肥は加湿地の土壌改良には適さないとも言えるでしょう。
そこで私は有機堆肥を用いる場合は、極力、輸入品のピートモスを用いるようにしています。ピートモスはカナダやロシアや北欧から輸入されています。椰子の実から取れるココピートもスリランカなどから輸入されていますが、自然熟成したピートモスの方が加湿地では安心と考えています。
以上のように台湾で土壌改良を行うとすると資材調達に困るのが実情です。今後は自らが良質な土壌改良材を台湾で作っていき、台湾の植栽技術の向上を図ると共に、都市の環境改善に少しでも貢献できればと考えているところです。
5回に渡り「ネバネバ・カチカチの台湾土壌」と題して記してきました。もし、台湾で樹木にまつわる仕事をすることがあれば、台湾の土壌特性を理解した上で臨んでいただければ、またこの連載に記してあることが少しでもお役に立てればと願う次第です。
笠松滋久