今年2015年はなんと国際土壌年!です。(この国際土壌年というものが決まったのは第68回の国連総会(2013年)ですので、なんとも耳に新しい言葉ですね。)
ありがたいことに私自身、樹木医の立場にあって、国内外で実に様々な土壌に出会いかつ頭を悩ませる機会に恵まれました。
その経験の中でも特徴的なもののひとつに、とある人工島があります。
その人工島は陸から5㎞離れた洋上にあり、その土壌は全て礫質(言わばすべて岩と砂利)であり、植栽のなされている所でも表層わずか20㎝程度にマサ土が覆土されているだけの非常にシンプルな状態です。
無論人工的に作られた環境であるため生物の多様性も乏しく、病害虫などもほとんど見られない反面、地上にも地下にもろくに生物の分布がない環境からすべてがスタートしています。
この写真はこの人工島に植栽が始まった2007年のサクラの状態ですが、実に葉が乏しく弱々しい状態です。
植栽基盤の硬さは樹木にとって顕著な障害であり、サクラなどは特に幹や枝の枯れとして表出しやすく、この人工島においても土壌の硬度に配慮無く植栽された木の多くにこのような枯れが発生しました。
また、人工的な環境なので、植物にも生物にも、驚くべき速さで遷移が生じます。例えば当初は天敵となるテントウムシがいないことをいいことにアブラムシが大量に発生しましたが、翌年にはテントウムシが見られるようになり、アブラムシもなりを潜めたと思いきや、すぐさま次の病害虫が入り込み途端に大発生を生じるということの繰り返しです。
また通常の環境では、環境の平衡状態を保つような緩衝能があるものですが、人工島では生物による環境が乏しいため地形や環境からの障害がダイレクトに生じ、例えば海水面に近い所では湿度の害による落葉が多く生じました。
当初、夏期に発生した異常な落葉の原因が何であるか不明でしたが、徹底的にその要因を調べていく中で、海水面側と立地的に丘側となる位置で樹木の葉の量が徐々に異なっていくことが判明し、この要因を生むものが何かを調べていくと特異的な湿度の変化である事が判明しました。通常の環境であればさほど樹木に対する湿度の影響というものは大きな要素ではないのですが、これも人工島特有の現象かもしれません。
この人工島では約8年にわたり植物の生育の変化を追いましたが、この土壌でいかに植物を保つか、本当に悩まされました。
笹部雄作