剪定鋏(右)と剪定芽摘み鋏(左)

剪定鋏(右)と剪定芽摘み鋏(左)

 

 私は普段、植木鋏よりも剪定鋏をよく使います。
中でもとりわけ剪定芽摘み鋏と呼ばれる細めの鋏が気に入ってまして、この細身の鋏を活躍させる機会が多いです。

 植木鋏は両刃の鋏ですが、剪定芽摘み鋏は片方が受け刃となり、もう一方が鋭い刃のれっきとした剪定鋏側の道具でして、自分にとって植木鋏と剪定芽摘み鋏には非常に大きな違いがあります。(外観からは刃の幅や鋭さの違いがないので、違いがあるのかな?と不思議に思われる方も多いはず。)

 鋏に関わっていますと、なんとなく鋏には格式というか、敷居があるかな?と感じる場面に出くわします。
 単純に言いますと枝の剪定の分野では“華道の鋏”>“植木鋏”>“剪定鋏” という図式がありそうでして、特に剪定鋏はザックリと荒っぽい仕事に耐える、よく言えば雄々しく、悪く言えば荒い仕事の道具という感じでしょうか。(あくまでも個人的な印象です。)

 しかし、私としましては鋏の機構、力学から言っても、せん断応力を最も厳密に使用するという観点からも受け刃がしっかりとしている剪定鋏に軍配が上がると思うのです。植木鋏は両方が鋭い刃であり、一見すれば最も点で刃が接するため鋭い断面を実現できるように感じるのですが、太い枝の場合、刃の鋭さと薄さが災いし、刃の間に隙間が生まれます。この時、せん断応力がうまく働かず、断面が荒れてしまいます。もちろん、太い枝を剪定する必要が無いほどこまめに樹木の手入れを行い、成長1年以内の小枝しか切る必要が無いと仮定するならば、それで十分かもしれません。しかしながら実際の手入れでは、複数年伸ばした枝を切り戻すことは大変重要で、かつそういう場面が頻繁に出てきます。こういう観点から、よく手入れされた剪定鋏は何とも使い手の期待に応えてくれるありがたい道具と感じるのですが、その仕事っぷりに比して、いまひとつ脚光を浴びない道具に感じます。

 ということで鋏を外見とは違う視点から眺めてみます。

日本の鋏らしきものといえば、古くは愛知県名古屋市にある、5世紀ころの古墳と言われる一本松古墳から鉄の鍛造に使うヤットコが出土しており(このヤットコが鋏の機構を持った最初の出土品らしいのです。)なんとこの時代には鉄の鍛造と、鋏につながる品が日本にあったことが伺えます。
(世界的には鋏の起源は紀元前1000年のギリシャにあるとされていますので驚きです。)

 鋏を大きく分けますと和鋏と呼ばれる日本式の鋏(実はギリシャ型)は支点が端にあり、洋鋏(ローマ型)は止め具が鋏の中間にあります。ギリシャで出土した鋏は和鋏型のものだったようです。

 華道の鋏は室町時代から使われ、やや遅れて植木の鋏が歴史に現れてきます。その歴史と比べ、国内での剪定鋏の始まりは、1902年ごろ、フランスの剪定ばさみに影響を受けた鋏が売り出されましたことあたりに出発点があり、他の鋏に比べて歴史が浅いと言えなくもありません。(しかし歴史の最後尾に出現したということは、工夫の最先端に位置するのではないでしょうか?)また剪定鋏は果樹用に導入・発展した経緯があり、園“芸”の中でもとりわけ現実的な分野の道具ですので、名誉より実益という路線を歩んでいそうです。なんとなく私が感じているハサミの格式は、ひょっとしたら歴史における剪定鋏の若さにも一因しているんじゃないかな?と思う今日この頃です。

 笹部雄作