私は「N造園」で働いている。義理の父である親方と、二人で細々と仕事をこなす小さな造園屋である。
 もっとも最近は、親方が高齢なので私が主体となって仕事をしているが、忙しいときには、いやな顔ひとつせずに手伝ってくれる、やさしい人だ。
 この親方だが、とてもおおらかな性格をしている。その度合いは、時には私の理解の範囲を超えるときがある。
 ある日、仕事の休憩のとき、親方が話しかけてきた。
 「昨日、ゴルフに行ってんけどな、途中で用事を思い出して電話しょうと思うて、ポケットからケータイ取り出したら髭剃り機やったんや!参ったで!ひゃっひゃっひゃっ!」

 

髭剃り機

髭剃り機

 

 確かに携帯電話も髭剃り機も片手で持てるサイズだが、形も厚みもかなり違う。いくら無意識だったといえども、手に取った瞬間に違和感を感じると思うのだが・・・。
 また、ポケットに入れたままゴルフをして、その厚みに気づかなかったのだろうか?親方は、まるでひと事のように、面白そうに話していた。
 ただ、いつも楽しそうに話しているわけではない。
 それは、ある日の現場へ向かうトラックの車中でのことである。助手席で親方が眉間にしわを寄せて、かばんをごそごそと探りながらつぶやいていた。
 「ちきしょう!手袋3枚持ってきたのに、全部左や・・・。」

 

全部左?の手袋

全部左?の手袋

 

 たまにある話だが、手袋を2日分一緒に洗濯すると、次の日に間違えて両方同じ側の手袋を持ってきてしまう時がある。
 親方は、それを防ごうと、さらにもう1枚余分に計3枚持ってきたのだが、それがすべて左手用だったらしい。
 気持ちはわかるのだが、余分に持ってくるくらいなら、左右の確認をすれば済むのではないだろうか?
 私には理解できない・・・。手袋を睨みつけながら、心から悔いている親方の姿を見た私は、肩の震えを抑えるのに必死だった。
 結局、その日親方は、「ちきしょう!」とつぶやきながらコンビニで手袋を購入していた。
 こんな、おおらかな親方のおかげで、「N造園」はいつもなごやかな雰囲気に包まれている。
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