「蘭」という字を見て、あなたは何を思いつかれますか?

鈴蘭・春蘭などのラン科植物。 それとも、蘭語・蘭学などのオランダの国。 
いやいや、キャンディーズの伊藤蘭。まだまだあるョ。
今から30年以上前に宝塚歌劇で大当たりしたベルサイユのばらの男役・鳳蘭。
もっと昔、織田信長の御小姓・森蘭丸。

もう、ありませんか? と聞こうとしたとき、えらい本にドエライことが書かれていましたョ。

日本書紀 巻第十三 允恭天皇(いんぎょうてんのう)の皇后になられた忍坂大中姫命(おしさかおおなかつひめのみこと)が、まだ母の家に居られた頃、闘鶏国造(つげのくにのみやつこ)が、苑の中におられた大中姫に「其蘭一茎焉。」 (蘭一茎を乞うた。) とありました。

解説書のその1 「日本書紀(二) 坂本太郎・家永三郎・井上光貞・大野晋・校注」 (岩波文庫 2007年4月・第14版)には、「蘭(あららぎ) ノビルの古名。 本草和名に阿良々支。」 とあります。

解説書のその2 「日本書紀(上)全現代語訳 宇治谷孟」 (講談社学術文庫 2007年4月 第42刷)には、「そこのノビルを1本くれ」 と現代語で書かれています。

「古語辞典 新訂版」 (旺文社 昭和54年3月 重版) には 「蘭」①「のびる(草の名)」の古名。  ②「いちゐ(木の名)」の異名 とありました。

これで「蘭一茎」は「ノビル1本」だと納得していましたところ、又また植物分類学の大家、京都大学名誉教授の北村四郎先生の 「フジバカマの伝来」(日本の文様 花鳥 淡交社 昭和43年4月)には「蘭」の字をラン科の植物ではなく、キク科のフジバカマだ、と書かれております。 
「遠い昔、中国から薬草として伝来し、栽培されていた。日本書紀の允恭天皇2年(413年)、忍坂大中姫命の記事は、園中で栽培されているフジバカマの最初の文献である。」と書かれております。

今でも、フジバカマの仲間のサワヒヨドリを漢名で表現するには「沢欄」と書き、ヒヨドリバナは「山蘭」と書きますので納得です。

澤田 清