稲村小屋で昼食をとったあと、いよいよ稲村ヶ岳めざして出発です。
稲村小屋からは踏み跡が消えていたので不安でしたが、尾根をまっすぐに進めば迷うこともないだろうと思い、樹氷に囲まれた坂を上ります。
雪はほとんど凍結している状態だったので、アイゼンだけで進むことができました。
尾根の上部には蕾を一杯つけたツクシシャクナゲがたくさんあり、春の訪れを今や遅しと待ちわびているかのようです。
尾根のピークを下ると、目の前には大日岳の尖った岩壁が現れました。
大日岳から先の斜面が一番の難所でした。
急斜面をトラバースしましたが、ピッケルで体を支え足場を一歩づつ踏み固めゆっくり進みましたが、それでも雪がもろくて崩れ、なんどもずり落ちそうになりました。落ちたら谷底まで転落するので、必死にピッケルで支え進みました。
ピッケルを持っていて正解でした。ピッケルがなかったら、あの急斜面は進むことができなかっただろうと思います。
振り返って見ると、私が歩いた足跡が残っています。ここだけで20分位かかりました。
稲村ヶ岳(1726m)には2時に着きました。12時半に稲村小屋を出たので1時間半もかかりました。夏だと50分でいける場所です。
大普賢岳(1780m)の上で、救助用のヘリが飛んでいました。
大日岳(1689m)もすぐ下に見えます。天気が良ければ金剛山や生駒山の山並みがみえるのですが、この日はあいにく雲でみえませんでした。
天気が悪くなってきたのですぐ下山。
来た道を引き返し、また大日岳の斜面を必死にトラバースして進みました。
下山の途中、振り返ると大日岳が太陽の光を浴びて、こうごうしく輝いていました。
帰り道は走るように歩き、登山口には4時20分に着きました。
結局、この日は誰とも出会わず、私一人の登山でした。
冬の稲村ヶ岳は想像した以上の、なかなか手強い山でした。しかし時間がたてば、また行きたくなる魅力ある山です。
真田 俊秀