衰弱した樹木の原因を特定していく際に非常な困難にぶつかることが多々あります。顕微鏡の範囲で同定できるレベルだとまだましなのですが、困ったことに培養が出来なかったり、培養しても相当な条件が整わなければ特徴のでないものだったりするものに出会うことがあります。
 
 例えばキノコに類するものは菌糸の特徴が少ないものが多く、本当にキノコの傘ができるまで、見分けることがとても困難です。
 地上のキノコだけでなく地面の下でも植物の根は多くの微生物と共生していますが、

 

菌根

菌根

 

 これはクロマツの根に生じた菌根菌を顕微鏡で見たものです。

 

細根断面

細根断面

 

 一見するとツルツルに見える細根も、顕微鏡で観察すると驚く量の菌根菌が共生している様を確認できます。では、これがどの種の菌根菌であるのか?という事になると実に難問です。

 ということで昨今、植物の分野にも分子生物学的な手法が花盛りとなって来た感がありますので、東京にあります分析機器・試薬のメーカーさんを訪れましてDNA解析と技術を基礎から学ばせて頂くことにしました。

 

街路

街路

 

 この数日前、関東では未曾有の大雪で大変な状態と聞いていましたので、本当に到着できるのか不安だったのですが、私が現地入りした時には街路の端々に雪が残る程度まで回復していました。
 ラボの内部は機密事項が心配ですので写真でお見せできないのが残念ですが、やはり昨今の分析機器の進歩は凄まじく、過去には3年もかかったというサイズのゲノム解析をわずか1日で終える機器のコンパクトさと、その仕組みの凄さは圧巻で、また一方で、調合が非常に面倒な複数の試薬をあらかじめ混合してある便利この上ないキットなどの登場も感嘆します。などなど最新の機器などに目をうばわれながらマイクロピペットに翻弄されつつ機器分析に取り組んできた次第です。

 

電気泳動

電気泳動

 

 
 上の写真は、私が取り組ませて頂いたDNAの電気泳動の結果です。DNAのサンプルをサーマルサイクラーで増幅後、アガロースゲルの電気泳動にかけた結果がこの写真。
 こういう写真は植物病理の論文等でもよく見ますが、きれいな結果を得るのは本当に大変です。また既知のDNAならまだしも、未知のDNAではさらに途方もない行程が必用になるので、必定分析機器も恐ろしい速さで進歩を遂げています。
 農作物の分野と異なり、樹木の分野では、まだまだゲノムの解析が進んでいないものもありますので、機器による分析よりも専門家としての技量が問われる場面の方が多いと感じます。ですが、実際のところ分析機器一つを扱うにも相当の経験と専門の技量が必用で、今後ますます多岐に渡る専門分野を横断した能力が問われていくのだろうなぁと感じました。

笹部雄作