2013年7月12日(金)午後3時、私は台湾の台北市から南に150㎞の彰化という所にいました。当日午後2時に台湾では台風7号による警戒警報が発令され、学校も会社も休みとなってしまいました。強風が吹く中(この時、彰化市で風速20m/Sを記録していた)、私はパートナーが運転する助手席で、宿泊先である台北市を目指して北上していました。高速道路が閉鎖されるまでに台北にたどり着きたいと、休憩も取らずに、大雨の中、風にあおられ、ひやひやしながらの思いでしたが台北市に何とか到着できました。日本では通行止めになっている状況だが、台湾の高速道路は少々の風では封鎖されないと感心した反面、ちょっと怖かった次第です。
驚いたのは台北市内の繁華街。警戒警報発令により道はすいているのですが、繁華街にある映画館やレストランは超満員。学校や企業が休みとなったため、皆が繁華街に繰り出しているのである。こんなところでも台湾人のパワフルさには驚かされました。
私も台北101(台湾一の高層ビル)のレストランに夕食をとりにでかけたが、店が満席で入れず、唯一入れたのは高級レストランとなってしまい高く付きました。さすがにいつも夜遅くまで営業している台北101も、この日は夜9時に閉店となってしまい、タクシー乗り場に行くと長蛇の列でした。
台風7号は、翌7月13日(土)の明朝5時に台北市内に上陸しました。ホテルの10階の部屋にいた私は、ビュウビュウと吹き荒れる風音で目が覚め、まだ暗い街中をホテルの窓から眺めていました。この日の午前中の便で帰国する予定だったのですが、もちろん飛行機の発着はすべてキャンセル。帰国を一日遅らせ、14日の日曜日に帰る羽目になってしまいました。何度も台湾に渡航している私にとっても初めての経験です。日本では、海の日の祝日とあわせ3連休の時、私は台北のホテルで強風が収まるのを待つしかありません。
風が収まるのを待って、お昼の12時頃に街中の状況を確認すべくホテルを出て驚きました。すさまじい枝折れや倒木の被害です。看板も落ちていますが、樹木の残骸はいたるところに散乱しています。このような被害は今まで見たことありません。大半の樹木は腐朽が入ったところで折れていますが、中には何の障害も無いところで折れた枝や幹もありました。
実は、これまで台湾の樹木がクネクネと曲がっているのや樹形が整っていないのは、剪定管理のあり方の問題や、遺伝的なものと思っていました。実際、台湾の樹木管理者や大学の先生と話していても、剪定のまずさを指摘されていました。しかし、今回の台風を経験して思ったのは、台湾の樹木が曲がっているのは台風による枝折れや幹の傾斜被害が大きいからだと認識しました。
しかし、倒木したうちの何割かは根返り被害(根ごと倒木)ですが、これは植栽基盤整備をしっかりとすれば根が発達し防げる被害とも思えました。また、正しい剪定がなされ、危険木診断が実施されれば被害は低減できるはずです。倒木の後片付けは緊急を要する大変な作業です。
今年9月に、NPOおおさか緑と樹木の診断協会と(一社)街路樹診断協会の共催で台湾ツアーを実施します。日本の樹木医たちの助言により、台湾の倒木や枝折れの被害が少しでも低減できればと願います。
台風7号はアジア名で「ソーリック(SOULIK)」、台湾では「蘇力颱風」と名付けられています。台風の規模は950hPa以下で、最大瞬間風速は60.2m/Sを観測しています。日本の石垣島や与那国島でも同様の気象状況が観測されていますが、本土にはほとんど影響なく、皆様にはあまり印象のない台風だと思われますが、私にとっては強く記憶に残る台風です。
私が始めて経験するような大きな台風でしたが、台湾の人に聞いてみると「年に何度か来るちょっと大き目の中型台風だよ」と笑って応えてくれました。
2013年7月29日
街路樹診断協会 笠松 滋久